【詩歌療法:読む瞑想】自分の感性に合った詩を深く朗読するとうつ病が治った!|政治学者ミルのうつ病を癒し回復させたワーズワースの詩

2024年4月25日

詩を鑑賞し また詩を作ることで心の囚われを解放し
魂を癒していく それが詩歌療法です
今回は詩歌療法の歴史的実例をご紹介するとともに
立原道造の詩を実際に 心静かに味わっていただく試みです

『自由論』の哲学者ミルはうつ病に苦しみワーズワースの詩に救われた

立原道造の詩|動画では以下4編を朗読しています

動画もあります

はじめてのものに

ささやかな地異ちいは そのかたみに
灰を降らした この村に ひとしきり
灰はかなしい追憶のやうに 音立てて
樹木の梢に 家々の屋根に 降りしきつた

その夜 月は明かつたが 私はひとと
窓にもたれて語りあつた(その窓からは山の姿が見えた)
部屋の隅々に 峡谷のやうに 光と
よくひびく笑ひ声が溢れてゐた

――人の心を知ることは……人の心とは……
私は そのひとが蛾を追ふ手つきを あれは蛾を
把へようとするのだらうか 何かいぶかしかつた

いかな日にみねに灰の煙の立ち初めたか
火の山の物語と……また幾夜さかは 果して夢に
その夜習つたエリーザベトの物語を織つた

晩き日の夕べに

大きな大きなめぐりが用意されてゐるが
だれにもそれとは気づかれない
空にも 雲にも うつろふ花らにも
もう心はひかれ誘はれなくなつた

夕やみの淡い色に身を沈めても
それがこころよさとはもう言はない
啼いてすぎる小鳥の一日も
とほい物語と唄を教へるばかり

しるべもなくて来た道に
道のほとりに なにをならつて
私らは立ちつくすのであらう

私らの夢はどこにめぐるのであらう
ひそかに しかしいたいたしく
その日も あの日も賢いしづかさに?

のちのおもひに

夢はいつもかへつて行つた 山の麓のさびしい村に
水引草に風が立ち
草ひばりのうたひやまない
しづまりかへつた午さがりの林道を

うららかに青い空には陽がてり 火山は眠つてゐた
――そして私は
見て来たものを 島々を 波を 岬を 日光月光を
だれもきいてゐないと知りながら 語りつづけた……

夢は そのさきには もうゆかない
なにもかも 忘れ果てようとおもひ
忘れつくしたことさへ 忘れてしまつたときには

夢は 真冬の追憶のうちに凍るであらう
そして それは戸をあけて 寂寥のなかに
星くづにてらされた道を過ぎ去るであらう

また落葉林で

いつの間 もう秋! 昨日は 
夏だつた……おだやかな陽気な
陽ざしが 林のなかに ざわめいてゐる 
ひとところ 草の葉のゆれるあたりに

おまへが私のところからかへつて行つたときに 
あのあたりには うすい紫の花が咲いてゐた 
そしていま おまへは 告げてよこす 
私らは別離に耐へることが出来る と

澄んだ空に 大きなひびきが 
鳴りわたる 出発のやうに            
私は雲を見る 私はとほい山脈を見る

おまへは雲を見る おまへはとほい山脈を見る                                     
しかしすでに 離れはじめた ふたつの眼ざし…… 
かへつて来て みたす日は いつかへり来る?